大判例

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東京高等裁判所 昭和47年(ネ)1742号 判決 1973年9月13日

控訴人 小倉貞吉

控訴人 小倉ソヨ

右両名訴訟代理人弁護士 植木敬夫

被控訴人 田口平八

右訴訟代理人弁護士 宮原守男

右訴訟復代理人弁護士 石井吉一

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人は控訴人小倉貞吉に対し金一三八万七、九三九円および内金一一三万七、九三九円に対する昭和四四年一一月二二日から完済まで年五分の割合による金員を、控訴人小倉ソヨに対し金一〇六万七、九三九円およびこれに対する昭和四四年一一月二二日から完済まで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

控訴人らの被控訴人に対するその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを三分し、その二を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

この判決は第一、第二項に限り仮りに執行することができる。

事実

控訴人ら代理人は「原判決中控訴人ら敗訴の部分を取消す。被控訴人は控訴人小倉貞吉に対し、金三七〇万〇一〇三円および内金三四五万〇一〇三円に対する昭和四四年一一月二二日から完済まで年五分の割合による金員を、控訴人小倉ソヨに対し金三三六万〇一〇三円およびこれに対する昭和四四年一一月二二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠の関係≪省略≫

理由

一、責任原因

被控訴人が昭和四四年五月二八日午後四時一〇分頃、その所有にかかる自家用普通乗用車多摩五る三八九六号(以下本件自動車という)を運転し、東京都東村山市美住町二丁目一、六七五番地先道路上を西部新宿線踏切方面から西部多摩湖線踏切方面に向って進行中、同番地東村山浄水場角の交差点に差しかかった際、右道路と交差する道路を自転車に乗って左方向から進行してきて右交差点中央付近で右折しようとした亡小倉三男(当時満一四才)と衝突した結果同人が頭蓋底骨折の傷害を負い、同月三一日午後六時三七分右傷害により死亡したことおよび被控訴人が本件自動車を所有し自己のため運行の用に供していた事実はいずれも当事者間に争いがない。

従って、被控訴人は自動車損害賠償保障法第三条により控訴人らに対し、右事故による損害を賠償する義務がある。

二、過失相殺

本件交差点が交通整理の行なわれていない見通しのきかない交差点であること、亡小倉三男はドロップハンドルといわれる自転車に乗り、友人本橋寛とともに他の友人三名と離れて迂回路をとったため、本件北進道路を進行し右交差点を右折して進行する友人三名に追いつこうとしていたことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫を綜合すると、本件事故現場は、東西に走る通称水道道路と南北に通じる道路の交差点で、被控訴人が本件自動車を運転し西進した水道道路は幅員約八メートルで道路北側約一・五〇メートルを除きアスファルト舗装の歩車道の区別のないほぼ直線の道路であり、これと交差する南北に通じ亡小倉三男が北進した道路は、交差点の南方浄水場方向は巾員七・三〇メートルで北方野口町方向は巾員三・六〇メートルの歩車道の区別がなく未舗装の道路であること、浄水場は高さ一・八〇メートルの鉄柵が施されているため交差点を中心とした場合被控訴人の進行方向からは左方、亡小倉三男の進行方向からは右方の見通しがきかない状況にあること、本件事故現場付近は本件事故当時いずれの道路も交通量の少ない閑散な道路であったこと、被控訴人は本件事故以前において何回か水道道路を通ったことがあり本件事故現場が交差点であることも見通しきかない場所であることを知っていたこと、しかるに、被控訴人は左方道路からの他車の進入について配慮することなく時速四〇キロメートルの速度のまま本件交差点を通過しようとし、左前方約一一・四〇メートルの地点に小倉三男の自転車が交差点を右折しようとするのを発見して急遽急停車の措置をとったが間に合わず、同人の自転車に自車を衝突させ本件事故となったこと、一方小倉三男は本橋寛と共に本件交差点に向け北進中、本件交差点を通過して水道道路を東進する友人をみつけこれに追いつくべく速度を時速三〇キロメートル位にあげ、次いで本件交差点を右折するため速度を落したまま一旦停止することもなく道路中央付近を右折しようとしたため水道道路を直進し交差点を通過しようとした被控訴人運転の本件自動車と衝突するに至ったものであることが認められ(る。)≪証拠判断省略≫

右認定の各事実によると、本件交差点は被控訴人および小倉三男双方からみて他方の進行道路に対する見通しのきかない、しかも交通整理の行なわれていない場所であるから、被控訴人としては本件交差点を通過するにあたっては徐行すべきであるのに徐行せず漫然時速四〇キロメートルで本件交差点を通過しようとした過失があり、他方小倉三男も交通整理の行なわれていない交差点を右折するにあたり、道路の左側に寄らないで、しかも右側の見通しがきかないのに直進車両に対する注意を怠り道路中央付近を右折しようとした点に過失があり、本件事故は右双方の過失により発生したものというべく、被控訴人は自動車であり、小倉三男は軽車両を運転し、当時満一四才の中学生であったことのほか前記認定の本件事故の経過を考慮するときは双方の過失の割合は五対五であると認めるのを相当とする。

被控訴人は、本件交差点通過に際しては自車に優先権があり、従って徐行義務は免除されていると主張し、その根拠として、自車の進行道路が小倉三男の進行道路より明らかに広いものであったというが、前記認定のように、小倉三男の北進した道路は本件交差点の北側は幅員三・六〇メートルであるが、南側すなわち小倉三男が進行してきた道路は幅員七・三〇メートルで、被控訴人が西進した道路は幅員約八・〇〇メートルであるから道路交通法第三六条第三項にいう「明らかに広いもの」とはいえないし、しかも見通しのきかない交差点であるから被控訴人の右主張は採用できない。

次に、控訴人らは、本件交差点において先入車両である小倉三男に優先権があるというが、同人が被控訴人より先に本件交差点に入ったことを認むべき証拠はないから控訴人らの右主張は理由がない。

三、損害

(一)  亡小倉三男が昭和二九年一〇月一七日生で本件事故当時満一四才七月の男子であり、大和第一中学校三年在学中であったことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第五号証の一、二(総理府統計局昭和四四年第二〇回日本統計年鑑第一一回生命表)によれば、満一四才の男子の平均余命は五四・七一年であることが認められ、≪証拠省略≫によれば、亡小倉三男は健康で、学業成績も中以上であり、父小倉貞吉は自動車運転者として興民交通株式会社に勤務しており同人の将来に望をかけ進学させる布望を有していたことが認められるから、本件事故がなければ亡三男は右平均余命程度は生存でき、高等学校卒業後において満二〇才で就職したとして少なくとも満六〇才までは通常の一般勤労者として稼働労可能であったものと推定できる。そこで、亡三男の得べかりし純収入についてみるに、成立に争いのない甲第六号証の一、二(労働大臣官房労働統計調査部発行の昭和四三年労働統計年報)によると都道府県および産業別一人平均現金給与額が月額金五万五、四〇五円であることが認められるので、年額は金六六万四、八六〇円となり、右収入を得るに必要な生活費を五割とみると純収益は金三三万二、四三〇円となる。

そこで、右認定金額を基礎としてホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除し三男の死亡時における現価を求めると左記算式の結果六二七万一、七五七円(円未満切捨以下同じ)となり、同人は本件事故により同額の得べかりし利益を喪失したことになる。

332,430円×(23.2307-4.3643)=6,271,757円

(満15才から60才までの45年の係数) (満15才から満20才までの5年の係数)

そして、本件事故につき亡三男の過失を前記のごとく五割とすると、被控訴人に対し請求できる逸失利益は半額の金三一三万五、八七八円となる。

控訴人らが亡三男の両親であることは当事者間に争いがないから控訴人らは、各右三一三万五、八七八円の二分の一にあたる金一五六万七、九三九円の損害賠償請求権をそれぞれ相続取得したことになる。

(二)  慰藉料

控訴人らは本件事故により、その将来に大きな希望をかけていた三男を失い、これにより受けた精神的苦痛は甚大というべく、前記認定の本件事故の態様その他本件に顕われた諸般の事情を考慮するときは、亡三男の本件事故における前記過失を斟酌しても、控訴人らの蒙った苦痛に対する慰藉料としては各金一〇〇万円をもって相当と認める。

(三)  葬儀費用等

≪証拠省略≫によれば、控訴人小倉貞吉は亡三男の葬儀費用等として少くとも金一五万円を支出したことが認められるところ、亡三男の前示過失の割合によると内金七万円をもって本件事故と相当因果関係にある損害と認める。

(四)  弁護士費用

≪証拠省略≫によれば、控訴人小倉貞吉は被控訴人に対し、他人を介して本件事故に基づく損害賠償の交渉をしたが話し合いがつかなかったので弁護士塩塚節夫に対し本訴の提起を委任し、着手金等として金二五万円を支払い、かつ成功報酬として金五〇万円を支払うことを約したことが認められるところ、本件事案の性質、態様、被害者の過失その他本件に顕われた諸般の事情を考慮するときは弁護士費用としては金二五万円を本件事故と相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。

(五)  以上のとおりで、被控訴人に対し、本件事故に基づく賠償として控訴人小倉貞吉は逸失利益、慰藉料、葬儀費用、弁護士費用合計金二八八万七、九三九円、控訴人小倉ソヨは逸失利益、慰藉料合計金二五六万七、九三九円の損害賠償請求権を有するところ、控訴人らは、自動車損害賠償責任保険金として各金一五〇万円の支払を受け、前示逸失利益に充当し、また控訴人小倉貞吉は葬儀費用として被控訴人から金一〇万円を受領したことを自認するので、これらを控除すると、控訴人小倉貞吉の損害額は金一三八万七、九三九円となり、控訴人小倉ソヨのそれは金一〇六万七、九三九円となる。

四、結論

そうすると、被控訴人は控訴人小倉貞吉に対し金一三八万七、九三九円および内金一一三万七、九三九円(弁護費用を除いた額)に対する本件訴状送達の翌日であること記録上明白な昭和四四年一一月二二日から右完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、控訴人小倉ソヨに対し金一〇六万七、九三九円およびこれに対する前同様昭和四四年一一月二二日から右完済まで前同率の遅延損害金を支払う義務あるものというべく、控訴人らの本訴請求は右の限度において正当として認容し、その余はいずれも失当として棄却すべきものである。

よって、右と異る原判決を右の限度で変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条第九二条第九三条第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉山孝 裁判官 渡辺忠之 小池二八)

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